人工知能(AI)の発達と弁護士業務の将来について

 昨年の話になりますが,海外で人工知能「裁判官」が開発されたとのニュースがありました。私のような法曹が起案する文章は,建前上は,すべて法律を根拠としており,“機械的”なものです。ですから,法曹分野は,人工知能による起案に馴染みやすいともいえましょう。このニュースは,「やっと現れたか」,といったところです。

 さて,人工知能裁判官が生まれたということは,弁護士業務もAIに取って代られるのではないか,という予測も成り立ちましょう。そこで,弁護士業務のうち,どのような分野がAIになじむか,考えてみましょう。法曹関係者でないと理解しにくい専門用語を用いての考察となりますが,この点はご容赦ください。以下の考察は,主として民事事件を想定しております。

① 主張整理
 弁護士が適切な訴訟物を設定できさえすれば,あとはその訴訟物に対応する要件事実を検索すれば良いだけなので,人工知能などという大仰な技術を用いなくても,実現可能ではないでしょうか。ただし,大量の要件事実のデータベース化には,人工知能の補助が必要になるかもしれません。
② 訴状起案
 主張整理を機械化できれば,これをもとに訴状起案することは容易と思われます。ただし,法廷で必要に応じ起案する準備書面は,その内容の類型化には限界があると思われます。ですから,準備書面の起案システムには,もう少し技術の進歩を待たなくてはならないかもしれません。
③ 証拠評価
 証拠は,原則として“経験則”に基づき判断されます。したがって,その評価は,主張整理ほど機械的にできるものではないでしょう。ただし,これまで裁判所でなされた事実認定を学習させれば,いずれ,証拠評価も人工知能でできるようになるかもしれません。
④ 判決予測
 主張整理と証拠評価ができれば,判決予測は容易でしょう。
⑤ 陳述書作成
 主張整理と証拠評価ができれば,何を陳述書で表現するべきかは,弁護士であれば自ずと明らかです。海外では,すでに,その作成支援にあたっているAIが登場しているようです。
⑥ 法律相談支援
 弁護士と相談者の会話内容から,自動的に主張整理を作成し,弁護士に聴取事項を知らせるシステムです。
⑦ 準備書面起案
 以上のような法律相談支援や陳述書作成支援までシステム化できれば,準備書面起案も人工知能がしてくれるかもしれません。
 
 小説を書く人工知能や新聞記事を書く人工知能がすでに登場しております。ですから,以上のような訴状や準備書面を書く人工知能が登場しても不思議ではないでしょう。そのような時代は,もうすぐそこまで来ているかもしれません。私個人は,上記①から⑦まで実現してくれるようなソフトがあれば,1000万円で購入したいです(ただし,リースとさせてください。その場合,支払いは月額20万円程度でしょうか。)。

 それでは,こうした人工知能が登場し,商品化されれば,弁護士業務は完全に駆逐されてしまうのでしょうか。
 答えは,“否”と思われます。
 まず,弁護士の顧客は,あくまで相談者です。弁護士は,相談者に,その法的知見を“納得”してもらわなければなりません。相談者は,「正しい答え」を示せば,必ず納得してもらえるかといえば,そうではありません。人間は,理屈だけでなく,感情や利害関係といったいろいろな要素を吟味して,やっと,“納得”するのです。人工知能は,生身の弁護士よりも,正しい法律判断をするかもしれません。しかし,正しい法律判断だけでは,相談者は“納得”しないのです。
 次に,この“納得”とも関係するのですが,法的紛争が生じたときに何をどうするか,ここに正解はありません。ここで答えが一つであればよいのですが,法的紛争の処理方針は何通りか考えられるのが通例です。弁護士は,このうちの1つを選んで実行しなければなりません。それでは,その処理方法の選択につき,何か論理的な指針のようなものはあり得るでしょうか。私は,ここは,最終的には依頼者が決めるものであって,弁護士が決めるものではないと考えます。いかにその処理方針が,“解決への期待値がもっとも高い方法”だとしても,依頼者がこれに“納得”しなければ,その方法は採れないのです。ここで弁護士は,まともや理屈と感情と利害関係からひも解いて,依頼人に説明するのですが,依頼者がそこまでの説明を“機械”に要求するかどうかです。“機械”が出した結論は,参考にはされるでしょうが,これだけでは依頼者は決断できないでしょう。
 さらに,依頼人には相手方がいます。弁護士は,この相手方と交渉しなければならないのですが,この相手方が「正しい答え」だけで納得するとは限らないのです。ここで,「法的にはこうなります。納得できなければ裁判所に訴えるだけです。」などと言おうものなら,相手方は完全に感情を害してしまい,話合いならば1ヵ月で解決できるところが,延々と1年,2年,3年と時間が経過してしまうということもあり得るのです。この場面でも,弁護士は,感情と利害関係を説明しなければなりません。
 要するに,弁護士には,単なる法的知識だけでなく,これを関係者に円滑に説明できるだけのコミュニケーション能力が求められるのです。コミュニケーション能力だけは,人工知能で補完することはできません。これが,私が,AIが弁護士業務を駆逐しないと確信する理由です。