議論が苦手な人のための交渉術

 

相手と議論して「勝つ」ことは,それなりの技術があれば難しいことではないかもしれません。その方法は,①できるだけ大きな声で話す,場合によっては相手を威嚇する,②立場の違いを利用する,あるいは味方を多く立ち会わせる,③こちらは結論だけを話す,相手方が反論しようとしたら発言させない――こんなところでしょうか。こうすると,相手はこちらの言い分に何も反論しなかった事実だけが残り,相手が何かを言ってきたとしても「論破」したことになります。

 けれども,このような形で相手を「論破」できても,それで相手を「説得」することは難しいでしょう。「論破」とは,あくまでも相手が反論しなくなった状態にすぎず,相手がそれで「納得」しているとは限らないからです。相手が「納得」しなければ,それは「説得」したことにならないのです。

 裁判では,そのとき相手を「論破」したという事実は何の意味もありません。そこで意味を持つのは,その結果,「何」が「合意」されたかです。「納得」がないところに「合意」はないので,無理な「論破」で「合意」させられたとすれば,せっかく獲得できた「合意」が無効となる可能性もあるので,無理な「論破」が有害となることもあります。昨今,「論破」を格好良いと見る風もありますが,こういうわけで私は「論破」それ自体に何の価値も見出せません。

 それでは,相手が議論を求めてきたらどうすれば良いでしょうか。まず,相手が議論に値する人物かどうか,見極めてください。弁護士は,最初は相手に手紙を出して,その反論を待ち,対等な議論となる可能性を見つけてから,相手と交渉するものです。対等の議論ができるような信頼関係がないのであれば,議論に応じないでください。議論に応じる義務は誰にもないのです。下手に議論に応じて,ムチャな合意をさせられるぐらいであれば,元から議論に応じない方が良いのです。

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