AIがもたらす司法の未来

AIの発展が著しいです。先日,試みにAIを用いたチャット機能を利用してみたのですが,人間と会話しているような反応を見せてくれます。法的な質問をすれば,まだ間違いも多いですが,こういう点については我々の想像を超えるスピードで進化していくのではないかと予想します。

 こうなると関心あるのが,AIの進歩によって我々の司法文化はどのように変わっていくかです。相談に対し法的な回答や文書を作成してくれるようなAIが登場すれば,司法はすべてAIが処理するようになるのでしょうか? 私はそうは思いません。理由は次のとおりです。

 まず,司法は事実に法律を適用して回答するプロセスですが,この「事実」というものが厄介です。「事実」とは,市民が弁護士に相談した時点の「事実」のみではなく,その後の訴え提起時や裁判中に,次々と「事実」が積み上げられます。この元々の「事実」に積み上げられる「新たな事実」によって判決が左右されることも珍しくありません。そしてこの「新たな事実」は,市民の行動ひとつでいくらでも変動するものなのです。弁護士の法律相談は,今ある「事実」に,どのような「新しい事実」を作り出すかをアドバイスする側面もあるのですが,ここは法的な知識ではなく霊感に頼る部分も少なくありません。AIがこの人間らしい霊感に追いつくには,まだ時間がかかると思います。

 次に,「事実」は「証拠」によって立証されるのですが,その「証拠」で「事実」が立証されたかどうかを判断するのは裁判官という人間なのです。このとき,AIは,果たしてその「事実」を立証するのにどのような「証拠」が必要となるか,相談者にアドバイスできるでしょうか。登記や契約書のような定型的な文書であれば,これが「証拠」になると回答しやすいですが,それ以外の物で何がどのように「証拠」となるかは,それこそ弁護士の霊感が頼りとなる部分です。

 また,一定の法律論を前提に,相手方とどのような交渉をするかは,どこまでいっても人間でなければなりません。この相手方である人間との交渉をどうするかというのは,まさに交渉にあたる人間の霊感に頼らなければならない部分が大きいので,AIでは無理だと思います。

 なによりも,法解釈にはグレーゾーンが必ずあるのです。このグレーゾーンに該当する事実はかなり広範囲に及んでいて,そこでどのような判決が出るかは,最後まで分かりません。こういう部分でAIが判決を予測するのは不可能でしょう。なぜか? こういうグレーゾーンでは,最後は正義が結論を決めるのであり,正義感の信念をもたないAIがこの部分を判断できるはずがないからです。これは,逆に言えば,事実に法律を機械的に適用して何とも感じない法律家が増えれば,そのような法律家はいつでもAIに取って代わられます。そういうことにならないよう,自分もしっかりと正義感を持ち続けていきたいと思います。

~多摩オリエンタル法律事務所~

多摩センター駅徒歩3分。夜間・休日も対応いたします。債務整理のご相談は無料です。多摩市、稲城市の方からのご相談が多い事務所です。債務整理・離婚・相続・後見等の個人事件や、売掛金回収・倒産等の法人事件の実績多数あります。

成人年齢が18歳となったこと

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: b0b65c17af12bb1e0f184dc158ec9736-1-981x1024.jpg新成人を迎えられた方,おめでとうございます。民法上,成人年齢は18歳に引き下げられておりますが(民法第4条),報道によると,自治体が主催する成人式では20歳を主体とするところが多かったようです。

さて,この民法上の成人年齢が18歳に引き下げられるとは,どういうことでしょうか。未成年者がした契約などの法律行為は,原則として親権者(保護者)の同意を必要とし,こうした同意がない法律行為は取消すことができます(民法第5条)。これまでは,20歳未満がした契約などの法律行為は,こうして親が取り消すことができたのですが,民法上の成人年齢が18歳に引き下げられたために,今後は18歳と19歳がした法律行為は取消せなくなったということです。

ただし,離婚した夫婦の一方が,子を養育している他方に支払う養育費は,当分の間は,今まで通り,子が20歳になるまで請求ができそうです。養育費は,子が経済的に自立することを期待することができない場合に支払われるものとされているからです。

酒・タバコも20歳になってからのようです。こちらは,20歳未満は身体が未成熟ということだからでしょうか。

競馬・競輪などのギャンブルも,20歳になってからです。法務省のサイトによれば,ギャンブル依存症対策ということのようですが,18歳や19歳がギャンブル依存症になりやすいというほど精神的に未成熟だとするならば,そもそも成人年齢を引き下げるべきではないと思うので,個人的にはこのような運用は疑問です。

いずれにしましても,18歳になられた方は,1人でできることが増えることは間違いないです。20歳になった方は,もっとできることが増えます。できることが増えるということは,それだけ責任も大きくなるということです。新成人にならられた方,頑張ってください。

AV出演被害防止・救済法に思う。

AV出演被害防止・救済法が施行されました。自分としては,違和感しかないです。そもそもAV出演契約というのは,公序良俗に反して民法90条により無効であると考えていたからです。ところがこの法律は,AV出演契約の成立要件を規定し,その有効性を公認してしまったのです。

考えてみてほしいです。そもそも性は,個人の尊厳を基礎づける最たるものであり,このようなものが契約の目的になり得るはずがありません。それは「私の生命を100万円で貴方に売ります」というのに準じ,「私は貴方の奴隷になります」というのと同じぐらいバカげた契約でしょう。

すべてのAV出演契約は,公表後1年間は無条件で解除可能といいますが,こういうわけで自分は,無期限で無効主張可能と考えます。したがって,その公表の差し止めも,無期限で可能とみるべきでしょう。

このように主張すると,表現の自由とのバランスが問題となりそうです。しかしながら,AVの主役はどこまでいっても出演者ですから,出演者の表現の自由こそ最大限に保護されるべきです。ですから,表現者である出演者自身がその公表を望まないのであれば,やはりその公表の差止はどこまでも認められるべきです。AV出演の契約を認めることは,むしろ出演者の表現の自由を侵害しているという意味でも不当でしょう。

私は,AVという表現自体を否定するつもりはなく,出演者自身がこれを公表したいと望むならば,これを止める理由もないと思います。しかし,これに関する契約を有効としてしまうと,出演者に一定の表現を強要することになってしまうのです。性というその表現内容の価値に照らせば,いかなる意味でもその契約を有効というべきではないと思います。今回の法律は,AV出演契約を全面的に無効とした上で,その強要や公表の差し止めについて出演者の利益に適うように制定してもらいたかったのですが,そこまで至らなかったのが残念です。

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某町の誤振込み問題について

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某町の新型コロナウィルス関連の給付金を誤振込みした問題で,マスコミの批判は,振込みを受けた町民に集中しているようです。私は,この問題について,もう一人,批判されるべき存在がいると思っています。それは,誤振込みをした町役場の職員ではありません。これを受け付けた金融機関です。

報道によると,誤送金の手続きをした町職員は,すぐにミスに気づき,その日のうちに銀行に連絡をしたといいます。誤送金を受けた町民側は,どうもこれを何かに使ってしまったということらしいですね。しかし,この町民が誤送金があったことに気付くまでに,相当の時間があったはずです。町職員がミスに気付き,銀行に連絡をした時点で,銀行側で何等かの措置ができていれば,このような結末にはならなかったのではないかと思うと,残念で仕方ありません。

こうした誤送金があった場合,多くの銀行は,ただちに送金手続の取消しをするのではなく,誤送金を受けた側の了解をもらって,初めてその取消しをするという手続きをします。それが誤送金であることが明白であるにもかかわらずです。おそらく,この送金手続自体が,高速複雑に処理されていて,一回その手続きをしてしまうと,これを取消すのに相当の手間がかかるためでしょう。

このようなことは,金融取引がネットで処理されない一昔前では,あり得ない話ではないでしょうか。おそらく,窓口で気付いて銀行職員にお願いすれば,その場で誤送金の手続きが止まったことでしょう。送金が高速で処理できるようになったというのは便利です。しかし,こう考えると,便利さを手に入れる代償に,私たちは大切なものを失いはじめているようにも感じるのです。

いろいろな物がめまぐるしい速さで便利になっていく時代ですが,果たしてその便利さは,本当に必要でしょうか。手間やコストはない方が良いと思われていますが,本当にそうでしょうか。今一度,本当に必要なものは何か,立ち止まって考えてみる時期に来ているのかもしれません。

追記

この原稿を書き終わった後で,この件,ご送金分の9割方が回収されたとのニュースが入りました。そうだとすれば,この原稿を撤回するべきかとも考えましたが,ニュースによれば,この回収に協力したのは銀行ではなく決済代行業者であったとのことです。金融機関が柔軟な対応をしたものではない,ということなので,この原稿は維持します。

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ウクライナ情勢と弁護士ができることについて

ロシアのウクライナ侵攻に関し,世間の非難が噴出しております。恥ずかしながら,私は,なぜロシアがウクライナに侵攻したのか,その事情はよく分かりません。何か,言い分があるのかもしれません。しかし,その「言い分」がどうであるにせよ,それが殺人を正当化する理由になるとは思えません。これは「戦争」と呼ぶべきではなく,「犯罪」と言うべきだと思います。一人の権力者による,大量殺人事件でしょう。と,このように非難をしてみても,物事が好転するとは思えません。そこで弁護士である私は,自分に何ができるか,考えてみました。

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コロナ対策について(法的見地から)

 コロナウィルスの流行により,ここ多摩地域でも様々な事業が中止・自粛となっています。コロナウィルスの感染力からすれば,このような対応も「あり得ない」ことではないとは思います。しかし,コロナ感染を予防するために人と接触をしないというのは,人が人を疑う社会を作り出すものであり,私はあまり好ましいことではないと考えます。むしろ「コロナに感染しても大丈夫!」と言えるような社会作りを目指すべきだと思います。
 それはさておき,最近のコロナ自粛ムードに伴い,どのような法律問題が生じるか,原則論にしたがって簡単に考えてみました。以下,元も子もない回答ですが,要するに,こうした問題を解決するには「政府の政策発表を待つしかない。」ということです。 “コロナ対策について(法的見地から)” の続きを読む