SNSでの安易な「拡散」は危険? 表現の自由について

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: IMG_0590-3-rotated.jpgいわゆるSNSが社会に浸透して,一般人の誰もが発信者になれる時代となりました。誰もが表現の自由を謳歌できる良い時代となりました。ところが最近,気になる裁判ニュースがいくつか出てきたので,SNSの利用法に関する注意を喚起しておきたいと思います。

いかに表現の自由が憲法で保障されているといっても,どのような言論でも法的に保護されるというわけではありません。私が独自に整理したところでは,①名誉・信用棄損表現,②プライバシー侵害表現,③知的財産権侵害表現,④脅迫的表現,⑤ヘイトスピーチ,⑥わいせつ表現などは,違法であってSNS上での発信は控えなければなりません。②以外は刑事罰が科されるおそれがあり,①から④は損害賠償を請求される可能性があります。

以上は当然のこととしても,最近,他人がしたこうした表現を「拡散」することが違法だとする裁判例が目立ってきました。違法な表現を「拡散」することは,新たに違法な表現をすることと同じという理屈ではないかと思われます。「いいね」と好評価したことを違法認定した裁判例も出ました。これは,とある発信を好評価すると,その発信が他に「拡散」していくことを理由としているものと思われます。

ここまでくると,私は,不気味さを感じざるを得ません。最近の裁判所の動きだと,一定の言論に対し,庶民が好評価することすら禁止されるのです。このような運用を許すと,ある種の言論を社会的に抹殺することも可能かもしれません。例えば,とある判決に対して,これを事実誤認であるとか,不当判決であるとか,そのような評価をすること自体が違法とされる危険はないでしょうか。

物騒な時代になりましたが,このままですと,知人がSNSにアップした画像について,安易に「拡散」したり好評価したりすることについては慎重になった方が良いように思います。このような萎縮効果を払拭するためにも,最高裁には一連の高裁判決を破棄してもらいたいです。

~多摩オリエンタル法律事務所~

多摩センター駅徒歩3分。夜間・休日も対応いたします。債務整理のご相談は無料です。多摩市、稲城市の方からのご相談が多い事務所です。債務整理・離婚・相続・後見等の個人事件や、売掛金回収・倒産等の法人事件の実績多数あります。

最近の裁判所の動向について

 新型コロナウィルスの感染者が減少傾向にあるようです。東京都内の入院患者数が高い水準で推移しているとはいえ,ここ1ヵ月は減少傾向にあり,多摩オリエンタル法律事務所では,ほぼ平常通りの業務をしております。
 とはいえ,社会全体でみれば,衛生面の警戒感は強いようであり,裁判所の運用も完全に通常通りとはいっておりません。4月の緊急事態宣言以来,東京地方裁判所立川支部では,係属事件の処理が滞り,その影響がまだ残っている印象です。業務はほぼ平常通りに戻りつつありますが,裁判期日の指定や間隔が,平時の1.5倍程度に広がっているのではないかという印象です。
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法律よりも大切なものがある。


法律を守っているのだから問題ないではないか。
そのようなことを言われることがよくあります。確かに,法律を守っていれば,裁判をして負けるリスクは極めて低くなります。しかし,法律が正義であるとは限りません。歴史上,悪法と呼ばれる法律はいくつもありました。法律を守っていれば何をしても良いのだという考え方は,間違っているように思います。
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NHKの昔話裁判(カチカチ山)について

 弁護士をしていると,法曹とそうでない人との感覚の違いを実感させられることが多々あります。NHKで,昔話裁判という番組があります。例えば,そのカチカチ山で,タヌキに対する殺人未遂(?)で起訴されたウサギを擁護するネット上の声が多いようです。しかし,法曹の感覚では,ウサギに執行猶予判決が妥当と考える人は,むしろ少数なのではないでしょうか。   “NHKの昔話裁判(カチカチ山)について” の続きを読む

私,失敗しないので―私,負けないので?

先日,とある医師が書いたコラムが興味深かったので紹介します。最近医療ドラマで有名になった決めゼリフ「私,失敗しないので」というのは,あり得ないというのです。失敗したことがない医者がいるとしたら,それは経験不足の医者だろうということでした。 “私,失敗しないので―私,負けないので?” の続きを読む

認知症訴訟の最高裁判決を読んで反省したこと

女神テミスの像と聞いて,イメージできますか。ギリシャ風の彫刻で,片手に天秤,右手に剣を持っている女神の像といえば,分かるでしょうか。天秤は,正義か悪かを判断する道具であり,裁判を意味するのでしょう。剣は,まさに権力そのもので,強制執行や刑の執行などを意味します。
 
女神テミスの像は,もう一つ,特徴があります。それは,多くが目隠しをしていることです。目隠しは,女神が天秤を用いて善悪を図る際,目の前の人を見ないこと,公正に裁判することの象徴です。ですから,この像は,最高裁判所などの司法関係者により,好んで設置されます。
 しかし私は,この目隠しして裁判することに違和感があります。それは,目隠しをして,本当に真実を見ることができるのか,という疑問です。
 
先日,最高裁判所で,認知症の夫が起こした鉄道事故につき,その妻も子供も,損害賠償責任を負わないとの判断が出ました。大きなニュースとして取り上げられたので,詳細は省きますが,驚くべきは,地裁は妻と子供に,高裁は妻に,その損害賠償責任があるとの判断をしたことです。この下級審裁判所の判断は,老老介護問題に対する意識が低いとして,世間から大きく批判されたところでした。
 この事件で問題になったのは,「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は,その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」とした民法714条の解釈でした。そして,夫婦には同居扶助義務があって(民法752条),法曹であれば,認知症の夫が起こした鉄道事故につき,妻は損害賠償をしなければならないとの解釈をしたくなります。
 
しかし,本件では,被告とされた妻も80歳を超える高齢で,要介護認定も受けていて,とても夫を介護できるような状態ではありませんでした。下級審裁判所は,判決文を書くにあたり,法を公正に適用しようと意識し過ぎたために,これらの現実を“目隠し”して見ようとしなかったのではないでしょうか。
 
私が思うに,裁判所で適用される法律は,単に国会で成立したものに過ぎず,それだけでは,正義にも悪にもなりません。法律は,裁判所が判決を書くための基準に過ぎず,それ以上でもそれ以下でもありません。ですから,事実に法律を公正に適用した結果は,正義にも悪にもなります。

 もっとも,幸いなことに,法律はいかようにも解釈できます。法律を適用した結果,悪になるのであれば,その解釈は“間違っています”。そこで,法律の解釈を工夫して,正義の結論を導く,それが法曹のあるべき姿なのではないでしょうか。

 裁判所だけでなく,弁護士も,法律相談を受けたとき,「正義は何か。」ではなく,「判決はどうなるか。」を考えがちです。もちろん,判決の見込を正確に予測することは重要です。依頼人から情を訴えられると,この予測を誤ることがあるので,あえて“目隠し”して,法律の解釈をすることはよくあります。
 
しかし,“目隠し”をしてしまうと現実を見なくなり,正義が見えなくなり,判決の予測はできても,正義を実現できません。
 
法曹関係者の皆さん,そろそろ“目隠し”を,外してみませんか。

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判決を取りに行くのは他に手段がない場合ー孫子の考え方から

凡用兵之法,全国爲上,破国次之。
最古の兵法書といわれる孫子を引用してみました。およそ最高の兵法とは,国と戦わずに勝つのが上策で,国と戦って勝つことはこれに劣る,という意味です。弁護士が事件処理をしているとき,常に考えさせられる言葉です。 “判決を取りに行くのは他に手段がない場合ー孫子の考え方から” の続きを読む

司法取引について

捜査と公判の見直しに向けた刑事司法改革の最終案が,法制審議会で決まったそうです。
その中で,司法取引の導入が盛り込まれているのが気になるところです。予定されている制度は,検察官が被疑者などに起訴しないなどの見返りを与えて他人の犯罪を供述・証言をさせるというもので,経済事件や銃器・薬物事件が対象とのことです。 “司法取引について” の続きを読む

裁判よりも示談が優れている

多摩オリエンタル法律事務所は,このほど,訴訟よりも示談による解決を重視する方針をとることにしました。もちろん,示談交渉よりも訴訟による解決が優れている事例があることは否めません。しかしながら,多くの事例では,裁判官から判決を得るよりも,示談で解決するほうが優れていると思われます。以下,理由を述べます。

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