私,失敗しないので―私,負けないので?

先日,とある医師が書いたコラムが興味深かったので紹介します。最近医療ドラマで有名になった決めゼリフ「私,失敗しないので」というのは,あり得ないというのです。失敗したことがない医者がいるとしたら,それは経験不足の医者だろうということでした。

弁護士業務も,同じようなことが言えると思います。ドラマでは,よく“負けたことがない弁護士”というのが出てきます。確かに,そのように吹聴している弁護士をよく見かけます。しかし,普通に法律相談を受け付けていれば,“裁判になっても負けてしまう事件”というのが必ず持ち込まれます。ですから,“負けたことがない弁護士”がいるとすれば,それは“裁判になっても負けてしまう事件”を受任しない弁護士ということになります。

それでは,弁護士は,法律相談を受ければ,それが勝つ事件なのか負ける事件なのか,正確に判断できるでしょうか。答えは,ノーです。なぜならば,その事件で勝訴できるかどうかは,相談者の主張だけでなく,相手方の反論や証拠の中身を詳細に検討しなければならないからです。依頼を受ける段階で相手方の反論や証拠を詳細に把握できるケースはほとんどありません。法律相談を受けたときに,「裁判で勝てますか?」と聞かれることがよくありますが,多くの場合,私の回答はこうなります。「やってみなければ分かりません。」

多くの相談が“やってみなければ分からない事件”である中で,どうしたら“負けたことがない弁護士”になれるでしょうか。私には,そのような弁護士は,“確実に勝てる事件しか受任しない弁護士”,“勝てるかどうか分からない事件は絶対に受任しない弁護士”あるいは,普通に弁護士業務をやっていれば一度は必ず体験する敗訴判決を受けたこともないほど“経験がない弁護士”に見えてしまうのです。

かくいう私も,“負けない弁護士”にはなりたいと思っています。しかし,“勝てるかどうか分からない事件”を詳細に調査している間に事態が動いてしまい,“勝ち事件が負け事件になってしまった。それで相談者を救えなかった。”というのも避けたいものです。弁護士である以上,“勝てるかどうか分からない事件”であっても,誠実に対応したいものです。